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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
「やあ、お揃いですな」久之進は微笑しながら近寄った、「まるで一時に桃が咲き出したようで眩しゅうござるぞ、みんな弓をおやりか」
「お黙りあそばせ」小萩がきっと遮った。色は浅黒いが、そこに集ったなかで小萩はやはり群を抜いた器量である、三所籐の強弓を左手に、籐へ五本の箭を負った馬上の姿は娘ながら凛とした威をもっている。「趣意は文で申上げましたとおり」と小萩は切り口上で続けた。「わたくしの射る箭は五本でございます、間合は三十歩、これへ胴を持参致しておきましたが、お着けになっても万一のことはお覚悟あそばせ」
そう云いながら、傍にいた女中の手から、用意してきた桶側胴を受取ってそこへ差出した、これを着けてももしかすると命はないぞと云うのである。
「それは色々と御心のつくことで」久之進は笑って、「せっかくだがどうせ着けても危いものならよしに致そう、同じことなら胴を着けて死ぬより、着けずに死ぬほうが外聞が好さそうだ」
「どちらともお心まかせに」
「すぐに始めますかな」こちらはじっと相手の眼を見た。
「間合は三十歩です」
じっと覓める久之進の眼から慌ててそむきながら、小萩は突放すように云った。