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そこつひょうばんき

粗忽評判記

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页

青空文庫

三

「支度はここでするがよいぞ」

「は、腰の物を持参仕ります」と久之進は立って座を退った。

脇差は帯しているが大剣は控間に置いてある、それを取りに退出したのだが――さて、出ていったきり戻って来ない、いくら待っても戻って来ないのである。大名屋敷で広いには違いない、ことに奥殿の数寄屋と玄関の控間では相当に離れているが、それでも十町二十町とある訳ではなかった。

「見にやっていただこう」明敬は焦々しはじめた。出雲守の小姓が見に行った、そしてすぐに妙な顔をして戻って来た。……控間には一緒に供をして来た四人がずっと待っていたが、久之進は現われなかったと云うのである。「控間には戻らぬと申すか」「はい」「そんな、そんなばかなはずはない!」明敬はせかせかと云った、「刀を取りに出ていったのだから他へ参るはずはない、もういちどいってたしかめて参れ」

「はい、――」

小姓はあたふたと走っていった。

三

出ていった小姓とほとんど入れ違いに、出雲守の馬廻りをつとめる若侍が二人で久之進を左右から支えながら運び込んで来た。じつのところ運び込んだと云うより他に形容のしようがない、「壱岐守さま御家来、かように大酔されまして……」