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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
六
なんの、強く唇をひきしめながら、きりきりと弦をひきしぼった、ひきしぼったが、そのまま小萩は呼吸が止るかと思った。今までの木偶を立てたような構えとはまるで違う、今度は久之進の姿が大剣の蔭に隠れて見えないのだ。そればかりではない、籠手下りの正眼に構えた刀が、今にもこっちへ跳びかかって来る生物のようにさえ見える。これしきのことが、勇を鼓して眼を凝らすが、次第に血が頭へのぼってくるので眸子が狂い、詰めている呼吸は胸膈を引裂くかと思われる、そのとき「えい」久之進が凄じく絶叫した。
小萩はがくりと馬の首へうち伏した。
六
まわりにいた女中たちの二三人が、あっと云って馬を寄せようとしたとき、久之進は刀を鞘に納めてつかつかと近寄り、「小萩どの一言だけ申上る」と云った、「女童と云われたのは、武芸沙汰を嗤うのではない、武家に生れたからは女子でも武芸の一手二手、心得るのがあたりまえのことだ、ひと口に女童と云われるのは、いささかの才能に慢心して婦の道を忘れるからだ、三人張の強弓を引いてその矢表に立つ者なしなどとは笑止なばかりでなく、吹上藩の侍どもの名聞を貶しめるわざだ、閨門の威を張る国は亡び、女のでしゃばる家の末遂げたためしはない、あなたとは親たちのあいだで約束したこともあるが、たった今ここで破約をする、しかとお伝えしましたぞ」