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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
「黙れ、出雲守の酒を飲みながら余の酒を飲まぬとは云わさんぞ、きゃつめが御厩奉行になってどんな心持か、そのほうも一緒に味わってやれ」
「――御厩奉行」ああと彼は声をあげた。
「出雲めがまんまと為止めおったぞ」
久之進は眼を伏せた。それから低いこえで、お相手を仕りますと答えた。明敬も酒を嗜むほうではない、しかし喧嘩相手の信継が眼前に出世したことを思うと、酒でも飲まずにはいられなかったらしい。これもまた我儘育ちの大名の一癖である。……多くも飲まなかったが悪酔いをした、むろんそんなことで胸の忿懣は納るはずはなかった。
「――久之進、使者に行け」
「いずれへ参りまする」
「愛宕下の志摩侯を招いて来い」
愛宕下の松平志摩守、これは殿中で明敬と話のうまの合う人だった。ときには互いの邸を訪ね合うこともある、もう四十に近い年だが無役のままで、明敬としては今の不満を語るのにもってこいの相手だった。
「仰せではございますがもはや夕景でもあり、お上にもお酔いあそばしたごようすゆえ、明日御茶になりと御招待遊ばしますよう」
「そうか、――」明敬は案外穏かに頷いた。「ではそうしよう、使者には今宵のうちに参っておけ、申付けたぞ」