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そこつひょうばんき
粗忽評判記
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1929(昭和14)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,942 字 · 28 页
八
「は、仰せ相違なく申伝えまする」
「大儀であった」信継はすっかりまじめになっていた。
久之進は拝揖して辞去した、使者の行先を間違えたばかりではない、とんでもない相手にとんでもない口上を述べてしまった。出雲守の屋敷を出た彼は心なしか顔色も暗く、馬をやるにも放心しているかに思われたが、もう信継の前へ出たときから覚悟はついていたのだろう、飯倉の屋敷へ戻るとすぐ、夜中ながら押してお目通りを願い出た。悪酔をしてすでに寝所へ入っていた明敬は、久之進と聞いて申付けたこともあり、仔細ありげな押しての願いに、間もなく衣服を換えて表へ出て来た。――久之進はいつにも似ず、はるかに退って平伏しながら、「お上、久之進めに切腹を仰付くださるよう」いきなりこう云いだした。
「なんだ、どうしたのだ」
「申訳ございませぬ、お使者先を取違えました」
「間違えたと云って……」明敬は眉を顰めた。「ぜんたいどこへいったのだ」
「出雲守様お屋敷へ参りました」
あっと云って明敬は口をひき結んだ。
八
「今日のお怒りも出雲守ゆえと、そのことのみ考えて参りましたためか、ついうかうかと御門へ入り、しまったと思いましたがすでに遅く、ついに出雲守様と……」