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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

たしか、お気づきのことと思われますが、時折り見える、青い炎がそれでございました。ですもの、あの下手人が、だれであろうがどうだろうが、百度千度、清い心と自分から決めて十字を切ろうが、この憂愁と不安を除くことは、どうあってもできないのです。どうか私を、御心の行くままに、奥方様、どうなりともお裁きくださいまし……」

言い終わるとフローラは、まるで、汚物を吐き尽くした後のようにガックリとなった。

しかし、紅琴には、露ほども動揺した気色がなく、じっと石壁に映る、入り日の反射をみつめていたが、やがてフローラを促して、岩城を出で、裏山に上って行った。

その頂きは鉛色をした、荒涼たるツンドラ沼だった。

そこには、露をつけた、背の低い、名の知れない植物が這い回っていて、遠く浜から、かすかな鹹気と藻の匂いが飛んでくるのだ。紅琴の顔は、折りから白夜がはじまろうとする、入り日に燃えて、生き生きと見えた。

彼女はフローラに向かって、静かに、不思議な言葉を吐いた。

「そもじの嘆きは、葉末の露に、顔を映せば消えることです。独り胸を痛めて、私は、ほんとうに哀おしゅう思いまする。すでにそもじは、十字架に上りやったこととて、基督とても、そもじの罪障を責めることはできませぬぞ」