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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

そういわれたとき、フローラは、眼前にこの世ならぬ奇跡が現われたのを知った。

眼が薄闇に馴れるにつれて彼女の眼は、ある一点に落ちて、動かなくなってしまった。

それは、葉末の露に映った、自分の頭上に、見るも燦然たる後光が照り輝いていて、またその光は、首から肩にかけた、一寸ばかりの空間を、透んだ蒼白い、清冽な輝きで覆うているのだ。

とめどなく、重たい涙が両頬を伝わり落ちて、歓喜のすすり泣きが、彼女の胸を深く、波打たせた。

が、そのとき、紅琴の凛然たる声を背後に聞いたのだった。

「だが、そもじの罪障は消えたとて、二人を殺めた下郎の業は永劫じゃ、私は、今日これから、そなたの前で、そやつを訊し上げてみせますぞ」

それから、小半刻ばかりたったのちに、一人の背の高い男が、浜辺に集った土民たちの中で、身を震わせていた。

海霧が、キラキラ光る雫となって、焼けた皮膚や、髯の上に並んでいくが その男はただ止まろうとせず、それが失神したようになって、おののいているのだ。

紅琴は、その男をにくにくし気に見すえて、言った。

「どうじゃグレプニツキー。いまこそ、妾の憎しみを知ったであろうのう。