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えほんのはる
絵本の春
泉 鏡花
「文藝春秋 第四年第一號」1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,447 字 · 13 页
道理こそ、お父さんが大層な心配だ。……新坊、小母さんの膝の傍へ。――気をはっきりとしないか。ええ、あんな裏土塀の壊れ木戸に、かしほんの貼札だ。……そんなものがあるものかよ。いまも現に、小母さんが、おや、新坊、何をしている、としばらく熟と視ていたが、そんなはり紙は気も影もなかったよ。――何だとえ?……昼間来て見ると何にもない。……日の暮から、夜へ掛けてよく見えると。――それ、それ、それ見な、これ、新坊。坊が立っていた、あの土塀の中は、もう家が壊れて草ばかりだ、誰も居ないんだ。荒庭に古い祠が一つだけ残っている……」
と言いかけて、ふと独で頷いた。
「こいつ、学校で、勉強盛りに、親がわるいと言うのを聞かずに、夢中になって、余り凝るから魔が魅した。ある事だ。……枝の形、草の影でも、かし本の字に見える。新坊や、可恐い処だ、あすこは可恐い処だよ。――聞きな。――おそろしくなって帰れなかったら、可い、可い、小母さんが、町の坂まで、この川土手を送ってやろう。
――旧藩の頃にな、あの組屋敷に、忠義がった侍が居てな、御主人の難病は、巳巳巳巳、巳の年月の揃った若い女の生肝で治ると言って、――よくある事さ。