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ぬいこ

縫子

宮本 百合子

「新潮」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页

青空文庫

縫子は仕合わせを感じていると、多くの若い娘のように活溌に敏捷にならず、腕に力のないような、よたよた歩みをしそうなところが出来るのであった。

十時頃。

「さあ、これでお仕舞」

と英輔が先に札を投げ出した。

「ああああ、すっかり熱中しちゃった」

勘次郎は煙草をつけ仔細らしく云った。

「やっぱりトランプなんかより面白いね日本人には」

なみが、

「さあお口がせっついているでしょう皆さん」

と云いながら台処へ立った。

英輔は側にあった婦人画報を見始めた。登美が一緒に覗いた。

「英兄さんどんな人がすき?」

「さあね、どれもすき」

「本当は? あ、この人はどう」

口で冗談云いながら、英輔が眼では割合一心に見るのが縫子に感じられた。彼女は無関心そうに南京豆を鑵に戻し始めた。

「英兄さん、どんな奥さんがよくて。――ハイカラな人?」

「ハハハハ単刀直入だね登美っぺは。――田舎っぺえは御免だよ」

「英語が話せたり、ピアノが弾けなくちゃいけないのね、そんなら……」

「ピアノなんかどうだっていいさ」

ぱらぱらと夥しい令嬢の写真版つきの雑誌を翻したが、英輔はふと真面目に傍に縫子のいることなど念頭にない自然さで考え深く呟いた。