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ぬいこ

縫子

宮本 百合子

「新潮」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页

青空文庫

「これからは女もせめて専門学校位出ていないじゃ駄目だな」

南京豆は鑵の中へ落ちるたんびに喧しい音を立てていたが、縫子はこれを聞洩すようなことはなかった。南京豆が千落ちる音よりこの呟きは大きい。――

「――姉さんたら。母さんが呼んでるじゃないの。……駄目よまたぼんやりしちゃっちゃ」

縫子は初めて気がつき、のろのろ台処へ立って行った。

縫子は明る日から再び六畳に現れ、お針子の仲間に加った。再び地袋の前に坐っている彼女を見て、もういいのと訊く者さえなかった。

「縫子さんお早う」

「お早う……」

昼休みに米が大菩薩峠を音読して皆に聞かせた。「『まず御免なせえまし』そこへ入り込んで、どっかと胡坐(あぐら)をかいて黒い頭巾を投げ出したのは、なるほど裏宿の七兵衛でありました」

「ちょっと、そこに縫ちゃんいますか」

爪を剪りながら大した感興もなく、油ののった米の声を聴いていた縫子は、小鋏を置いて襖をあけた。茶の間に行って見ると、水口から茶色のスウェタアに洋袴(ズボン)をつけた勇が帰って行ったところであった。縫子は黙って長火鉢の向う側に来て蹲んだ。

「困っちまうわね、山科さんところ、また一騒動したんですってさ」