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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

「あッ! あなた?」

と叫んで、短刀をガラリと落すと、張りつめた力を急に失なったように、ガックリと友木の胸に凭りかかった。

「無茶じゃ。無茶じゃ」

危く生命を落す危険から逃れてホッとしながら、恐怖に蒼ざめた顔をしかめて、玉島は叫んだ。

「何が無茶だ」

友木は憎悪に充ちた眼で蒼くなっている玉島を見ながら怒鳴った。

「何が無茶じゃて? こんな無茶な事が世の中にあるもんかいな。貸した金を返えしもせず、人を殺そうとするなんて、阿呆らしくてものが云えんがな」

「ものが云えなければ黙ってろ。貴様のような奴は殺しても好いのだ」

「無茶苦茶じゃ。謝りもせんと、云いたい事を吐かす。もう辛抱が出来ん。わしは告訴する」

「ふん、告訴でも何でもして見ろ。俺はもうお前なんか恐くないぞ」

「わしは恐うのうても、お上は恐いぞ」

「恐くない」

「阿呆云うな。牢へ這入らんならんぞ」

「構わない」

「無茶じゃ。無茶じゃ。そんな事云わんと、金を返えして呉れ」

「ふふん。そんなに金が欲しいか。金を返えせば文句はないんだな」

「金を返えして、大人しゅう引取って呉れたら、何にも云わん」

「よし、では金を返してやるから、証文を寄越せ」