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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
同じ小鳥たちなのか、他の小鳥たちなのか分らないが、それが何回となく繰り返されている。――これは私の物語の中にとり入れてもいいぞ、と思いながら私はそれを飽かずに見まもっている。――こんな風にして、自分の見つつあるものが自分の構想しつつある物語の中へそのままエピソオドとして溶け込んで来ながら、自分からともすると逃げて行ってしまいそうになる物語の主題を少しずつ発展させているように見える……。
アカシアの花が私の物語の中にはいって来たのもそんな風であった。それの咲き出す頃が丁度私の田舎暮しもそのクライマックスに達するのではないかというような予覚のする、例の野薔薇の莟の大きさや数を調べながら、あのサナトリウムの裏の生墻の前は何遍も行ったり来たりしたけれど、その方にばかり気を奪られていた私は、其処から先きの、その生墻に代ってその川べりの道を縁どりだしているアカシアの並木には、ついぞ注意をしたことがなかった。ところが或る日のこと、サナトリウムの前まで来かかった時、私の行く手の小径がひどく何時もと変っているように見えた。私はちょっとの間、それから受けた異様な印象に戸惑いした。