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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
それを知っても、しかし、私の小さな同伴者たちは何も罵ろうとせず、却って私に向って何かその言訣でもしたいような、そしてそれを私に言い出したものかどうかと躊躇っているような、複雑な表情をして私の方を見上げているので、私は不審そうに、
「あの子は白痴なのかい?」と訊いた。
子供たちは顔を見合わせていた。それから大きい方の子が低声で私に答えた。
「そうじゃないよ。――あれあ気ちがいの娘だ」
「ふん、それであんな変な家にいるんだね?」
「あれあ氷倉だ。――あの向うの家だ」
しかしその氷倉だという異様な恰好をした藁小屋に遮ぎられて、その家らしいものの一部分すら見えないところを見ると、恐らく小さな掘立小屋かなんかに違いなかった。
「気ちがいっておとっつぁんがかい?」
「……」兄も弟も同時に頭を振った。
「じゃ、おっかさんの方だね?」
「うん……」そう答えてから、兄は弟の方を見い見い誰に言うともなく言った。「ときどき川んなかで呶鳴っているなあ」
「おれも一度向うの川で見た」弟の返事である。
「向うって何処だ?」
「向うの方だ」弟は何んだか自信のなさそうな、いまにも泣き出しそうな顔をして、漠然と或る方向を私に指して見せた。