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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
そんな林の中をずんずん先きになって駈け下りて行く子供たちの跡について行きながら、彼等がいまだに何となく昂奮しているらしいのを、私は漠然と感じていた。そうして、こんな風に彼等と一緒に峠を下りて行く私は一体彼等にはどんな人間に見えているのだろう? とそういう現在の私自身にも興味を持ったりした。
峠を下り切ったところに架っている白い橋の上に、小さな男の子が一人、鞄を背負ったまま、しょんぼりと立っていた。私の連れ立っている子供たちがその男の子に同時に声をかけた。彼等を見るとその男の子はにっこりと微笑した。が、私にも気がつくと、人見知りでもするかのように、橋の下の渓流の方へその小さな顔をそむけた。私も私で、しばらくその渓流をぼんやり見下ろしていた。さっき林のなかの空地で子供の一人が漠然と指したそのずっと上流にあたる方を心のうちに描きながら。それから私は三人の子供たちに小銭をすこし与えて、彼等と別れた。
※(アステリズム、1-12-94)
雨が降り出した。そうしてそれは降り続いた。とうとう梅雨期に入ったのだった。そんな雨がちょっと小止みになり、峠の方が薄明るくなって、そのまま晴れ上るかと思うと、峠の向側からやっと匍い上って来たように見える濃霧が、峠の上方一面にかぶさり、やがてその霧がさあと一気に駈け下りて来