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ほんやくのかち
翻訳の価値
宮本 百合子
「ゴロヴリョフ家の人々」にふれて
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,126 字 · 7 页
意味に忠実であるばかりでなく、シチェードリンのむずかしい文章の脈うちの特徴や、作品人物の性格的な物言いの癖までも日本文のなかに捕えようと試みていて、そのために、一応「わが友」と書いた字のよこへ、お前、お前さん、君、とふりがなをつけて読ますことも敢てしている。こういうこまかな表現にこそ、外国語のニュアンスの移植のむずかしさがひそめられているということを感じさせる。(しかし、こういう工合に二重に重ねる字のつかいかたについては、疑問がのこされているが)
それらの努力の窺える真面目な訳であるのだけれど、読んでゆくうちに、訳文全体の調子が、一種の低さを感じさせるのは、何故だろう。何となし、訳文の精神とでもいうべきものが、もう少し高められていたら、どんなに完璧な芸術のよろこびが感じられただろうと思えるところがある。
訳者は熱のこもった態度で仕事している。その面の無気力が反映しているというのではない。それとは別のものである。シチュードリンのこの作品を訳した翻訳者としての見識や積極性は十分評価されるべきであって、なおそのこととは別の印象として訳文にもう一段とたかい精神の響を求める欲求はのこされるのである。