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ろうふうふ
老夫婦
黒島 伝治
1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页
とじいさんは云った。
「今日行かんとて、いつか俺が連れて行てあげる。」
「いゝや、うら等両人で行こうわ。」
清三は老父の心持を察して何か気の毒になったらしく、止めさせるような言葉を挟み挟み、浅草へ行く道順を話をし、停留場まで一緒に行って電車にのせてやった。
じいさんとばあさんとは、大きな建物や沢山の人出や、罪人のような風をした女や、眼がまうように行き来する自動車や電車を見た。しかし、それはちっとも面白くもなければ、いゝこともなかった。田舎の秋のお祭りに、太鼓を舁いだり、幟をさしたり、一張羅の着物を着てマチへ出る村の人々は、何等か興味をそゝって話の種になったものだが、東京の街で見るものは彼等にとって全く縁遠いものだった。浅草の観音もさほど有がたいとは思われなかった。せわしく往き来する人や車を両人はぼんやり立って見ていた。頭がぐらぐらして倒れそうな気がした。
「じいさん、うら腹が減ったがいの。」と、ばあさんは迷い迷って、人ごみの中をようよう公園の方へぬけて来て云った。
「そんならなんぞ食うか。」
「うらあ鮨が食うてみたいんじゃ。」
両人は鮨屋を探して歩いた。
「ここらの鮨は高いんじゃないかしらん。