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ろうば

老婆

小川 未明

「新天地」1908(明治41)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,436 字 · 11 页

青空文庫

けれどその笑いがいかにも罪がなく、無邪気であった。で、何処か私の死んだ婆さんに似た処があって恍然した処がある。私は、この老婆は果して罪のない老婆であろうか。それとも斯様に罪なげに見えるがその実腹の怖しい婆であるのか分らなかった。

兎に角この笑いは謎だ! と思った。

「医者にかかれば金が入るし困ったものだ。この分ではまだ明日も癒りそうもない。」といった。けれど斯様ことを言ったって、老婆はちっとも感じなかった。へへへへへへと無気味に笑って、ひからび切た手で顔を撫で廻している。

私はまた死んだ祖母に向って話しているような気がして、罪のない仏様のような婆さんだとも思った。

けれども決してそうでない! 先日病院の石垣の下で遇ったことや家に道具一つないことや、いつもこうやって坐っていて、食物を食った様子も見ないことや、長火鉢に火の気のないことや――而してこの老婆は子も孫もなく一人で生きているということを考えた時、私はもはやこの老婆に捕われてしまって、到底この家から逃出すことが出来ない運命に陥っているように感ぜられた。

何、自分はただこの家の二階を借りているばかりだ。