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おうがいのけんこうとし

耄碌寸前

森 於菟

森於菟『耄碌寸前』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鴎外の健康と死、観潮楼始末記、解剖随筆抄、魂魄分離、死体置場への招待、なきがら陳情。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 43,925 字 · 89 页

青空文庫

追記一

歌人である叔母小金井喜美子は「観潮楼の跡」の題下に十数首の和歌を詠じてこれを弔ったが、私は観潮楼焼失の詳報を受け取った夜、誰にも語れぬこの思いに堪えかねて、樺山町の寓居を出て折柄月も星もない暗い夜の街をあてもなく台北駅の方へと早足に歩いた。台北市役所の角まで来た私は、重苦しい感情の爆発を支えきれず、右手に黒々と聳える七星山を望んで四辻を右へ、「ワーッ」と獣のような叫びをあげながら、深夜の御成街道をまっしぐらにかけて行った。

観潮楼の現在はかの荷風の「日和下駄」の「崖」に沿う往来に面する冠木門とそれにつづく籠塀だけが残っている。時々東京に出て、その跡に隣りする、これも父の家の一部であった弟の家に宿泊しても、私はその門その塀に近寄ることをすらおそれている。今年になって近隣の人から焼跡を空地利用のために畑にしたいといってきたので私は喜んで使用してもらうことにした。私はいずれあの跡に一片の標柱なりと建てて観潮楼の跡、そして私自身の魂の跡を弔いたいと思っている。(昭和十八年三月)

追記一

以上の稿は今から十二年前、私が台北帝国大学の教授であったころ、土地の雑誌「台湾時報」