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せいにょにんぞう
聖女人像
豊島 与志雄
「群像」1947(昭和22)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,549 字 · 28 页
然しそれはまだ誰にも洩らしたくはない。それは立入禁止の聖域なのだ。――私は別な方面から言う。
「先ず、一応、社会が解体してしまって、個人個人がばらばらになり、それから改めて結合するんだな。」
それが、多岐に亘った議論をひき起した。そんなことをして、現代社会で、人は生き得られるか。よし生き得られたとしても、どんな風に新らしい社会が形成されるか。具体的な問題は無数に生起してくる。――だが、私としては、たとい生き得られなくとも結構だと思うのだ。
それに、私は議論が嫌になり、次に憂鬱に沈んでゆく。飲む速度も早いので、ひどく酔ってくる。尾形の方では酔えば酔うほど饒舌になるのだ。私は彼に饒舌らしておいて、ぐったりと横になった。
「お疲れになったのね。枕をあげましょうか。」と久子が言う。
私が頷くと、酔ってる彼女は、尾形の前も憚らずに、押入を開けた。
「あら。」
彼女は一瞬立ち竦んだ。それから、真赤な箱枕を取り出した。
「なんでしょう、これは。」
彼女は冷淡に言って、箱枕を私のそばに投げだしたのだ。その枕のことを、私は彼女に秘している。言うべきことでもないからだ。――然し、それを瓦礫のように投げ出されると、酔ってる私は、急激な憤怒を咄嗟に感じた。