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にくたい
肉体
豊島 与志雄
「文芸」1935(昭和10)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页
「なんだか……憂欝そうですね。」
さりげなく云われたそういう言葉に、私はふっと、白けきった気持になって、酒の酔もさめて、自分の顔付が頭の中に映ってくることがあります……。私が鏡を見るのは、髯をそる時、髪をなでつける時、まあそんなものですが、それよりももっとはっきりした鏡が頭の中にあって、それに自分の顔付が映ってきます。――頬は酒の酔に赤くほてっているのに、額に薄暗い影がかかっていて、眼尻にいくつも小皺がより、厚い唇がだらしなく開き、そして眼付が、物珍らしそうにきょろきょろあたりを見廻したり、またぼんやり曇ったりします。その全体が……そう……やはり憂欝そうですね。……以前はこんなじゃありませんでした。ついこの頃のことです。
負けた……一言で云えばそういう気持です。しかも、それがばかげていて、どうもやりきれません。
はじめのうちは、私は気にもとめませんでした。万事がすらすらと運んで、聊か得意だったほどです。
たしか……同業者仲間の宴会で、ぱっと、はでな一座……というほどじゃありませんが、まあ気持はそうで、飲む、食う、歌う……じゃんじゃんやっていますなかに、ちょっと、私の眼についた妓がいました。