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にくたい

肉体

豊島 与志雄

「文芸」1935(昭和10)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页

青空文庫

子供はよく眠っています。店の方は名ばかりで、お菓子にせよ化粧品にせよ、一日十円ほどの売上がある時など、眼を見張ってびっくりしてるような始末です。夕方など、彼女は店先に立って、顔見知りの近所の人たちと、一寸挨拶とも噂話ともつかない言葉を交えることもありますが、すぐに引込んで、店の奥へよりも、二階の室にあがってしまいます。私が行くと、前日に来たばかりの時でも、五六日遠退いた時でも、同じような笑顔と落着いた態度で迎えます。

――一体、これから、どうするつもりかしら?

それが、次第に私の不安を大きくしていきました。

友人の画家の一人……大変優れた天分を持っていますが、いつもひどく貧乏で、余り困ると、私の親父のところに絵を持ってきて、決して質入れするんじゃあない、どうせ受出せないんだから、質流れのつもりで、それだけ金をかしてくれ、その代り、確かに僕自身の作品だよ、とそんなことを云う愉快な男でしたが、それが或る時、どこから聞いたか、私とトキエとの間に赤ん坊があることを知って、その赤ん坊の寝顔をスケッチさしてくれないかと頼みました。私は当惑しましたよ。第一、トキエのことばかりでなく、赤ん坊のことなんか、誰にも秘密にしておいたのですし、その隠れ家に友人を案内するなんか、とんでもないと思いました。