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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

湖水の対岸に、貸バンガローや売店や管理人の事務所を寄せ集めたキャンプ村がある。ボートで釣りに出たついでに、用達しでもしているのだろう。そのうちに、ほかのボートで漕ぎ戻るか、湖水の岸の道を歩いてくるかするのだろうが、久美子には生存を廃棄するというさし迫った仕事があるので、あてのない大池の帰りを待っていられない。今朝のような失敗をくりかえさないように、どこか静かなところで、じっくりと考えてみる必要があるのだ。

久美子は玄関の脇窓からさしこむ陽の光をながめていたが、とても昼すぎまで服が乾くのを待っていられない。手ばやく煖炉を焚しつけ、浴槽に放りこんでおいた濡れものを椅子の背に掛けならべると、今夜、身を沈めるはずの自殺の場を見ておこうと思って、二階の大池の寝室へ上って行った。

寝乱した、男くさいベッドのそばをすりぬけて窓のそばへ行くと、天狗の羽団扇のような栃の葉繁みのむこうの湖水に船が四、五隻も出て、なにかただならぬ騒ぎをしているのが見えた。

ボートや、底の浅い田舟のようなものに、三人ぐらいずつひとが乗り、一人は漕ぎ、一人は艫にいて網か綱のようなものを曳き、一人は舳から乗りだして湖の底をのぞきこみながら、右、左と船の方向を差図している。