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かんぞうせんせい
肝臓先生
「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页
烏賊虎さんはヅネエなア、というように用いる。どういう人がヅネエかというと、それは、まったく魚に関したことで、天下の政治や巨億の富のあずかり知るところではない。そして、その名跡は子々孫々に語りつたえられるのである。
たとえば、烏賊虎さんが、そうである。今の烏賊虎さんがヅネエわけではなくて、三代前の先祖が、誰もまだ見たこともない一間ほどの足のある烏賊を釣った。釣りあげることができないので、ついに海中にとびこんで組打ちして仕止めた。
ヒコさん――三代前は鎌田彦太郎と云ったが――ヒコさんはヅネエ、ということになって、烏賊ヒコ、その時以来、鎌田家は、烏賊ノブ、烏賊タツ、烏賊虎と伝承し、虎さんの長男、鎌田吉五郎はやがて烏賊キチとよばれるようになるはずである。
タイ釣りの名人を先祖にもつ瀬戸家は代々タイ七とかタイ平などゝよばれ、マグロ久やクジラ市やサメ六の先祖はそれぞれこれらの巨大な魚獣を相手に栄光かがやく戦績を残しているわけだ。アジ文、野口文之助は現役で、つまりアジ家を起した初代であり、不漁になやむ晩夏、ヤケ半分にイワシを探して大島方面を回航するうちに、時ならぬアジの大群を発見した。