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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

しかも尚、力足らず、患者は激増し、流行性肝臓炎は日本全土を侵略しつつある。慟哭したい悲しさだ。

しかし、この日、鳴りやまぬ拍手大カッサイを耳朶にのこして、静坐冥想した先生は、深く心に期するところがあった。これぞ神の告げたもうシルシであろう。慟哭をすてよ。狐疑をすてよ。逡巡をすてよ。汝の力足らざることを嘆くな。肝臓医者とよばれることこそ光栄である。余生をあげ、血涙をしぼり、骨をけずり肉をそぎ、汝の息の限り、肝臓炎と闘え!

闘え! 闘え! 流行性肝臓炎と!

闘え! 闘え!

闘え!

★

ある日、先生が好古堂という骨董屋で、万暦物のニセモノの小茶碗を手にとりあげて眺めていると、道の左右から自転車にのった男が走ってきて、店の前でカチ合って車を降りて立話をはじめた。

「お宅の娘さんが病気だって話じゃないか。よくなったかい?」

「それが、どうも、はかばかしくいかないのでね」

「そいつア、よくねえな」

「それで、まア、これからお医者へ相談に行こうと思ってるんだ」

「フン、フン。何先生に?」

「ウチじゃア、いつも、赤城先生だ」

「なんのこった。あの先生じゃア、肝臓病と云われるにきまってらアな」