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のうのなかのれいじん
脳の中の麗人
海野 十三
「日の出」1939(昭和14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页
Yという女が、奮然と主人公の写真をやぶくところが、目の前に見えるようだ。だがこのくだりも、彼には全然記憶のないことであった。彼は、なんだか気持がへんになってきた。じっと部屋にいるのが、いやになった。持ち物をとりあげて懐しがる気も、もうどこかへいってしまった。彼は気をかえるために、着ながしのまま、ぶらりと外へ出た。
怪しい尾行者
雨はあがっていたが、梅雨空の雲は重い。彼は、ふところ手をしたまま、ぶらぶらと鋪道のうえを歩いてゆく。
着ているのはセルの単衣で、足につっかけているのは靴だった。下駄を買っておくのを黒木博士は忘れたものらしい。宮川には、和服に靴というとりあわせが、それほど不愉快ではなかった。
上り坂の街を、ぶらぶらのぼってゆくと、やがて大きな社の前に出た。鳥居の間から、ひろい境内が見える。太い銀杏樹が、百日鬘のように繁っている。彼は石段に足をかけようとした。そのときふと背後に人の気配を感じて、あとをふりむいた。
そこには、背広服をきた一人の青年が立っていた。ひどくくたびれたような顔をしている。色艶のわるい、むくんだような顔、下瞼はだらりとたるみ、不快な凹みができている。