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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

ミサ子がわざと知らん顔をしていると、今度は全体ドアをあけ、庶務の沖本がのっそり入って来た。

「……御精が出ますな……ひとりですか?」

じろじろミサ子のまわりや誰もいないたくさんの机の方を見まわした。警部あがりの沖本を好いてる者は一人もいなかった。「穴銭」という綽名がついている。頭に穴銭みたいなハゲが一つあった。警部をしていた時分、強盗にかみつかれた跡だという話だが、女事務員たちは、

「うそ! きっと神さんにやられたんだわよ」

と嫌悪をこめて笑った。

神さんにだって喰いつかれそうに憎々しい五十男だ。

「あんた、一昨日だったかも随分おそかったじゃないか……うん?」

ミサ子はむっとして、

「これ見て下さい」

おっつけられた支店長宛の書類を眼でさした。

「四時半になってこれだけ出たんです……こんなに使われて病気んでもなったらどうしてくれるんでしょ」

「ハハハハ……そんなこと会社の知ったことじゃないヨ。ハハハハ」

金でワクをはめた前歯を出して意地わるく笑いながら沖本は出て行った。

軽い靴音をたてて柳がやって来た。

「どのくらいですむ?」

「さあ……もう一時間……そっちは?」