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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

「待ってください」出三郎もしかたなしに立っていった、「そんなにおっしゃるならごらんにいれます、まだ始めたばかりですし、本当に自己流のつまらないものなんですが」

「つまらないかどうかはおれが判断するよ」

半兵衛は無遠慮に云って、彼のさし出す筆記をたんねんに見ていった。

――どうしてこれがわかったろう。

出三郎は腑におちなかった。あとでわかったのだが、半兵衛は藩政の広汎な改革を計画し、そのために領内全般へ、ひそかに下調査の手をのばしていた。その調査網に、出三郎の行動がひっかかったというわけである。……これは後日わかったことで、そのときは知らないから、出三郎はまるで化かされでもしたような気持だった。

「すまないが水をくれないか」と半兵衛がそこへ坐りながら云った、「あっちで酒を飲んだものだから喉がかわいてしようがない」

「ここには本当に水しかないんですが、茶をいれて来ましょうか」

「そいつを頼もう、茶のほうがいい」

おちついて筆記を見るつもりらしい、出三郎は母屋へ茶を取りにいった。

半兵衛はすっかり見終わってから、紙と筆を求めて次のような項目を書いた。「林相」「土壌」