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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

三

まるですぐ外出でもするような姿で、梅林の中に立ってどこかを眺めている。――きれいだな。出三郎はそう思いながら、両手を口に当てて鳩の鳴き声をまねた。それがお互いを呼ぶときの合図で、七重はすぐに聞きつけ、こちらを見て微笑すると、静かに林をぬけて近づいて来た。

三

ゆうべの礼を云ってから、出三郎はまぶしそうに彼女を見た。

「どこかへでかけるんですか」

「これ――」と七重は振袖の手を左右へひろげ、そして微笑しながら首を振った、「いいえ、ちょっと着てみただけなんです、早く起きてしまって退屈だったものですから」

「たいへんきれいだ、わからないけれど」

「うれしいわ」と七重は彼を見た、「初めてですわね、きれいだなんて云ってくだすったの」

出三郎は眼をそらした。七重の視線がいつになくきらきらするようで、どうにも見返すことができなかったのである。それから彼はふと思いだしたように、「見てもらいたい物があるからちょっと待っていてくれ」と云い、家へ入って艶書を取って来た。

「笑わないでこれを見てください」出三郎はそう云いながら、その手紙をさし出した、「ゆうべ帰ってみたら袂の中に入っていたんです、かまわないから読んでください」