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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

彼はほとんど逆上したような気分になり、虚勢をはる元気もなく、小さくなって酒ばかり飲んでいた。

半兵衛は七日ばかりいて江戸へ帰った。

おどろいたことには、半兵衛の包んだ金は二両あった。もし半年ごとにそれだけくれるとすれば年に四両である。出三郎は少なからず昂奮した。彼が兄から支給される小遣は(もちろん小遣だけであるが)一年に二両二分と定っている。そこへ四両というものが入るとすれば相当な高で、これは彼が昂奮するのも無理はなかった。

「なにが仕合せになるかわからないものだ」と出三郎は自分に云った、「合わせて年に六両二分といえば、ちょっとした御役についたも同様だからな、おまけにこっちの道楽のついでに出来る仕事なんだから、しかし、……彼はどうしておれの資料集めを知ったんだろう」

その点がまだ腑におちなかった。そして四項目の調査もなんのためのものかわからなかったが、かくべつ知る必要もなさそうなので、そんなことは考えないことにし、(こんどは)たいそう豊かな心持で領内をまわるようになった。

年が明けて宝暦四年の三月、参勤のいとまで帰藩した長門守宗寿とともに、定高半兵衛も帰って来た。