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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
だが彼が案じたほどにもなく、そのまま月日がたっていった。
宝暦八年、出三郎が二十七歳になった年、定高半兵衛が近習頭をしりぞいた。長門守宗寿が在国ちゅうで、老職に転ずるのかと思ったがそうではなく、無役になったのである。――出三郎は例のように「角万」で馳走になりながら、半兵衛自身からそれを聞いた。
「しかし無役というと、どういうことなんですか」
「出さんだけに話すんだがね」と半兵衛は云った、「おれが城代家老をねらっているのを気づかれたんだ」
「城代家老ですって」
「定高は三代まえに城代を勤めたことがある、資格はあるんだ」と半兵衛は云った、「いまの重職組織はてんでなっていない、笊で水をくむみたように大事なものをみんなこぼしっ放しだ、その弊害はあらゆる面に出はじめている、このへんでなんとかしないと救いがたいことになるだろう」
「すると――」出三郎が云った、「無役になったのはどういうわけです」
「彼ら(というのは現重職の一部だが)、彼らはおれのねらっているものに気づいた、ばかなはなしさ、おれはほぼ十年まえから工作している、出さんに頼んだ調査もその中に含まれているし、三十二というこの年まで結婚しないのもそのためさ、ところが彼らは今になって気がついた、そうしてあわて――たんだろう、おれを年寄肝入に据えようと企らんだ、冗談じゃない