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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

庭先に足音がした。草鞋か足袋はだしなのだろう、湿った土を踏む音が、ひたひたと近づき、そこでとまった。一人や二人ではない、いちど軒先でとまると、左右へ分かれるのが(その気配で)わかった。

半兵衛は気合を計っていた。顔色にも、態度にも動揺したふうは微塵もない。

――彼は求真堂で師範をしのぐといわれた。

出三郎は自分の昂奮をしずめるようにそう思った。自分も「折紙」をもらっている、もう七年もまえのことだが、ともかく折紙をもらうところまではいったのだ。

「定高半兵衛、いるか」

広縁の向こうで声がした。半兵衛はつと歩み寄り、障子をさっと左右にあけ放った。

「半兵衛はおれだ、待っていたぞ」

広縁の向こうに、覆面をした黒装束の男が五人いた。外はもうほとんどくれて、こちらからさす燈火の光りが、左右にひらいた五人の姿を照らしだした。出三郎はたしかに五人と数え、彼らが一斉に抜刀するのを見ながら、隣りの長四帖へとびこんだ。

彼が渡り廊下から庭へおりるとき、広縁を踏む乱れた(重々しい)足音と、つんざくような掛声が聞こえた。出三郎はかっと頭へ血がのぼり、喉頭へ固い玉のような物が詰まるのを感じた。