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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

。

半兵衛は右へ一歩、そっちへ刀を振るとみると、身を翻えして逆に左へさっと跳んだ。そこにいた一人は打込みの動作を起こしたところで、突きの姿勢になる瞬間に半兵衛の刀が頭上をおそった。その男はひっという声をあげ、肱で頭をかばいながら身をひねった。半兵衛の刀はその男の覆面を切りさき、むきだしになった男の半面が燈火に照らし出された。ほんの刹那であったが、出三郎はそれが笠井忠也の顔であるように思え、「あっ」とわれ知らず声をあげた。

「いけません、その男は斬らないでください」

だがおそかった。出三郎の叫ぶより早く、半兵衛の二の太刀はその男の太腿をするどく斬りはなっており、そして、その男が(太腿を斬りはなされて)横さまに顛倒したときには、半兵衛はすでに残る一人を広縁まで押し詰めていた。

――すばらしい、なんという腕だ。

出三郎は自分がいま叫んだことも忘れ、舌を巻くおもいで半兵衛を眺めた。

「うしろがないぞ」と半兵衛が云った、「死ぬのがいやなら刀を捨てろ」

相手は広縁の端まで詰められていた。左へも右へもかわせない。半兵衛の刀の切尖が、鼻梁のまん中をぴたりと押え、一呼吸ごとにぐいぐいと圧迫している。