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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

「離縁ですって」出三郎は思わず高い声をあげた、「笠井を離縁されたんですか」

「それも知らなかったの、まあいやだ」

「いつです、それは」

「去年の六月かしら」とかな女は記憶をたどるように云った、「そう、六月でしたよたしか、あなたもむろん知っておいでだと思ってましたがねえ」

それでは掬水楼のときにはもう彼女は笠井にいなかったのか、と出三郎は思った。そうとは知らないので、彼女のために笠井を助けようと思った。彼女になげきをみせないために、忠也を死なせたくないと思ったのだが。

「ああそれから」とかな女は云った、「そのお手紙に書いてあるだろうけれど、今夜の宵節句に来ていただきたいっておっしゃってましたよ」

出三郎はぐっと胸が熱くなった。

――宵節句。

久しく途絶えていた新村家の宵節句。数えてみれば八年になる、彼は胸が熱いものでいっぱいになり、全身が柔らかなやさしい感情にとけてゆくように思った。――自分の住居へ帰ると、すぐに手紙をあけてみた。母の云ったとおり宵節句の招待であったが、

――今夜は久しぶりでゆっくり話したい、聞いていただきたいこともあるから、ほかには誰も呼ばない、客はあなたお一人だからぜひ来てくださるように。