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えんしょ
艶書
山本 周五郎
「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页
と彼は呟やいた、「特徴のあるくずし方だし、さまという字はぴったりだ……しかしはっきり同じ筆跡だとはいえないな」
約半刻ばかり、彼は熱心に比べてみたのち、なにもいま定めることはないと思って、その手紙を片づけた。
夜七時という指定の時刻に、出三郎は新村家を訪ねた。新村家の人たちとも久しぶりなので、客間でしばらく話してから、七重にうながされて彼女の部屋へいった。雛段はまえの半分にも足りないほど小さく、雛の数も少なかった。七重は段の上の雪洞に灯をいれながら、「たいていな雛や道具は姪のたみにやってしまったのだ」と云った。
「たあちゃんというんでしょう」と出三郎が云った「いつか話をしたことがありますよ」
「そうでございますってね、あなたが上手に梟の鳴きまねをなすったって申しておりましたわ」
七重は健康そうにみえた。長患らいをしたあとのようでもなく、胸や腰のあたりは豊かにまるく、膚もつやつやとして血色がいい、顔つきなどは昔のままで、嫁にいった人とは思えないし、二十四という年よりは三つ四つも若くみえた。
「私は今日まで知らなかったのだが、笠井と不縁になったんだそうですね」