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えんしょ

艶書

山本 周五郎

「小説倶楽部」桃園書房、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,027 字 · 50 页

青空文庫

二

二

その夜は珍しく、彼のほかにもう一人男の客があった。名を笠井忠也といい、父の十兵衛は九百五十石の老職である。出三郎とは求真堂の同門で、年は二十五歳、剣術も学問もあまり出来はよくないが、社交上手とでもいおうか、性格ははでで調子がよく、新柳町の花街ではなかなかの遊び手だといわれ、嬌めいた噂が絶えなかったし、出三郎などもそのうちの幾つかが事実であることを知っていた。

――笠井は家が裕福だし、一人息子だし、男ぶりがいいときているからかなわないよ。

青年たちはそう評しているが、しばしば忠也に馳走されるので、悪口を云う者はあまりなかった。

「珍しいところで会いますねえ」忠也は出三郎を見てあいそよく笑った、「聞きましたよ今日、折紙をもらったそうじゃありませんか」

出三郎はあいまいに口を濁した。

招かれた娘たちは六人。――一人だけ知らない顔がみえたがあとはみな出三郎と顔なじみであった。毎年の例で新村家じまんのなれ鮓と白酒が出、娘たちがそれぞれに芸ごとをした。琴はこの家の七重と井口かしこ、鼓は永田松枝、仕舞は藤井かなえ、そうして新顔の娘は大場いねといい、これは三絃をみごとに弾いた。