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はなとにんげんのはなし
花と人間の話
小川 未明
「童話」1924(大正13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,756 字 · 8 页
その後で、おばあさんは、おじいさんに向かって、
「三円のお金をこの店でもうけるのはたいへんなことだ。お売りなさればよかったのに。」といいました。
「私の丹精を考えてみるがいい。いくら金になったって、この常夏は、売れるものではない。」と、おじいさんは、頭を振って答えました。
金持ちは、よほど、その花が気にいったものとみえます。また、四、五日するとやってきました。
「どうか、この常夏を売ってくださらぬか。五円さしあげますから。」といいました。
おばあさんは、こんなことが、またとあるものではない。売ったほうがいいと、そばでおじいさんに、小さな声ですすめました。おじいさんは、なるほど、考えてみれば、この店で、それだけの金をもうけるのは、たいへんなことだと考えたから、つい、その金持ちに、常夏を売ってしまいました。
金持ちは、喜んで、常夏を抱えて家へ帰りました。その後で、おじいさんは、大事な子供を奪われたように、がっかりしました。もはやさびしい家のうちを、どこを探ねても、真紅ないきいきとした、花の影は見られなかったのです。おじいさんは、また、前のたよりない、さびしい生活に帰ってしまいました。