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はなのさくまえ
花の咲く前
小川 未明
「お話の木」1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,442 字 · 13 页
そして、その中に幸吉が立っていると、おじさんの、そのずるそうな目つきは幸吉の顔の上に止まりました。おじさんは、幸吉にさも皮肉そうに、
「おまえ、このごろ買わないな。」といいました。幸吉が、いつも汚らしいふうをしていたからでもありましょう。また、めったにあめを買わないので、紙芝居のおじさんにとって、けっしていい得意でなかったのも事実です。
しかし、幸吉は、みんなの前で、こんなことをいわれていい気持ちはしませんでした。彼は、だまって、ただ顔を真っ赤にしているには、もっと勇気がありました。また、そんなことをいわれる理由もないように感じました。彼は、おじさんに向かって、
「買いたくないから、買わないのだよ。」と、きっぱりといいました。彼は、すくなくも侮辱に対する仕返しをしたように、小さな肩をぐっと上げたのです。
「ふん。」と、おじさんは、いったきりで、あっちを向いてしまいました。
「そんなこと、どうでもいいから、早くおはじめよ。」と、一人の子供が叫びました。
「もうすこし待ちな、いまはじめるから。」と、おじさんは、お客の気を損じまいとしました。
幸吉は、いつまでも立っていてお話をきこうとはしませんでした。