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はなのさくまえ

花の咲く前

小川 未明

「お話の木」1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,442 字 · 13 页

青空文庫

四

幸吉は、しばらく茫然として、考えながら立っていました。あちらに見える高い煙突は、町のお湯屋か、それとも工場の煙突らしく、黒い煙が早春の乳色の空へ、へびのようにうねりながら上がっていました。

「あ、田舎の家へ帰りたいな。」

幸吉は、自分には、帰る家があるのだと思いました。そう思うと、しみじみと故郷の村が恋しくなりました。

四

ジャックは、森の中へ深く入ってゆきました。彼の後からは、びっこの白犬と、耳の垂れた斑犬がついていきました。そして、たがいにジャックの右になり、左になりして、ジャックの身を護衛するように注意深く先方を見つめていました。すぎや、松の木のしげった森の中にはところどころ日の光が、にじのごとく洩れて下のささの葉を明るく照らしています。ここまでは彼を追ってくるものがありません。野犬の一群は、ジャックを中心にして、自分たちの生活を営むことにしました。彼らは、どこへいくにも一塊となって、いつでも敵に当たる用意をしていました。犬たちの間にも、戦って弱いものは、強いものに絶対に服従するというおきてがあって、夜になると、どこかの飼い犬が、畜犬票をチャラチャラと鳴らしながら、牛の骨や、パンくずなどをくわえて、彼らの機嫌を取るべく森の中へ持ち運ぶのもありました。