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はなのさくまえ
花の咲く前
小川 未明
「お話の木」1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,442 字 · 13 页
独り、みんなからはなれて、あちらへ歩いていきました。彼の心の中は、なんとなくさびしかったのです。
黒い常磐木の林があった、その下へきました。じきに花の咲く季節だったけれど、ここだけは、まだ冬が残っているように風が冷たかったのです。彼は、この冷たい風が、かえって、哀しい自分の胸にしみるように、いつまでもここにいて、風に吹かれていたい気持ちがしました。足音がしたので振り向くと、こちらへ駆けてくる女の子の赤いたもとが見えました。
「幸吉さん、早くいらっしゃいよ。私お金を持っているわ。」と、日ごろから親しいみつ子さんが、いいました。みつ子のお父さんは、大きな会社に勤めているとかで、みつ子は、いつも幸福そうでした。けれど、幸吉には、そのことが、なんの関係もなかったのです。
「みつ子さんが、きけばいいじゃないか。」と、幸吉は、白い目で、みつ子の顔を見ました。
「あんたもいらっしゃいよ。」
みつ子は、独りはなれていった幸吉を心の中で気の毒に思ったので、追いかけてきたのです。
あちらでは、おじさんのおもしろそうに声色を使っているのが、きかれました。
「僕、きかなくていいんだよ。