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はなさけるいし

花咲ける石

坂口 安吾

「週刊朝日別冊 第三号」1954(昭和29)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,620 字 · 24 页

青空文庫

剣ではこの土地で別格の名門たる念流の当主ですらこのように謙虚な心で剣に仕えている。これが上州の百姓剣というものだ。その太刀はあくまで鋭く、その心はあくまで曇りなきものでなければならなかったものなのだ。

この土地では剣客の心がこのように謙虚に結ばれているのが例であるのに、伊之吉と山崎孫七郎の無理無法、房吉自身の仕える剣とは余りにも相容れない邪剣邪心、腹にすえかねたから、かかる邪剣の横行を許して剣の聖地を汚してはならぬと房吉は堅く心に決するところがあった。この決意を妻と舅には打ち明かして、

「敵は剣客の名を汚す卑劣漢、弓矢鉄砲を用いても私を討ち果す所存でしょう。私は一死は覚悟いたしております。ただ卑劣漢に一泡ふかせ、弓矢鉄砲も怖れぬ正剣の味を思い知らせてやるだけで満足です。小さな人間一匹がむやみに大きな望みをもつのを私はむしろとりません。剣に神を宿らせたいと願うような大志も結構ではありますが、小さな死処に心魂をうちこむこと、これも人の大切な生き方だろうと思います。好んで死につくわけではありませんが、満足して小さな死処についたつつましいところを地下の法神先生もよろこんで下さるかと思います」