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はなび

花火

太宰 治

「文芸」1942(昭和17)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页

青空文庫

わが愛人。」と勝治はその男に言った。

「妹さんだろう?」相手の男は勘がよかった。有原である。「僕は、失敬しよう。」

「いいじゃないですか。もっとビイルを飲んで下さい。いいじゃないですか。軍資金は、たっぷりです。あ、ちょっと失礼。」勝治は、れいの紙幣を右手に握ったままで姿を消した。

節子は、壁際に、からだを固くして坐った。節子は知りたかった。兄がいったい、どのような危い瀬戸際に立っているのか、それを聞かぬうちは帰られないと思っていた。有原は、節子を無視して、黙ってビイルを飲んでいる。

「何か、」節子は、意を決して尋ねた。「起ったのでしょうか。」

「え?」振り向いて、「知りません。」平然たるものだった。

しばらくして、

「あ、そうですか。」うなずいて、「そう言えば、きょうのチルチルは少し様子が違いますね。僕は、本当に、何もわからんのです。この家は、僕たちがちょいちょい遊びにやって来るところなのですが、さっき僕がふらとここへ立ち寄ったら、かれはひとりでもうひどく酔っぱらっていたのです。二、三日前からここに泊り込んでいたらしいですね。僕は、きょうは、偶然だったのです。