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はなび

花火

太宰 治

「文芸」1942(昭和17)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,233 字 · 29 页

青空文庫

者になるのだ、羊を一万頭も飼って、それから、などと幼い空想をとりとめもなく言い続ける。母は泣いた。

とうとう、父の耳にはいった。父は薄笑いして、勝治の目前で静かに言い渡した。

「低能だ。」

「なんだっていい、僕は行くんだ。」

「行ったほうがよい。歩いて行くのか。」

「ばかにするな!」勝治は父に飛びかかって行った。これが親不孝のはじめ。

チベット行は、うやむやになったが、勝治は以来、恐るべき家庭破壊者として、そろそろ、その兇悪な風格を表しはじめた。医者の学校へ受験したのか、しないのか、(勝治は受験したと言っている)また、次の受験にそなえて勉強しているのか、どうか、(勝治は、勉強しているさ、と言っている)まるで当てにならない。勝治の言葉を信じかねて、食事の時、母がうっかり、「本当?」と口を滑らせたばかりに、ざぶりと味噌汁を頭から浴びせられた。

「ひどいわ。」朗らかに笑って言って素早く母の髪をエプロンで拭いてやり、なんでもないようにその場を取りつくろってくれたのは、妹の節子である。未だ女学生である。この頃から、節子の稀有の性格が登場する。

勝治の小使銭は一月三十円、節子は十五円、それは毎月きまって母から支給せられる額である。