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えいほんどじょうりくせんのぜんや

英本土上陸戦の前夜

海野 十三

「新青年」1941(昭和16)年 2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,727 字 · 72 页

青空文庫

「自殺男じゃない」と、私服警官は、アンを怒鳴りつけたが「まあ、もう少し温和しくして待っていろ、空襲が終り次第、どっちが、お前の本当の亭主だか、よく調べてやる」

仏は、黙りこくって、唇を噛んだ。

そのとき、とつぜん、飛行機の爆音を耳にした。

「ひえーッ、敵機が……」

「ああ神よ、われらを護り給わんことを」

防空壕の人々の中からは、一せいに悲鳴と祈りとが起った。と、あまり遠くないところで、轟然たる爆発音が聞え、大地はびしびしと鳴った。

「墜ちた、近いぞ」

わァと喚いて、逃げ腰になる。それを、叱りつける者がある。

仏とアンとの傍に立っていた私服警官は、二人を睨みつけておいて、そのまま身を翻すと、防空壕の入口の方へ駈け上っていった。

また、爆音が聞えた。今度は、よほど近い。ばらばらと、天井から砂が落ちて来た。大地は、地震のように鳴動した。

「マスクは、出してお置きなさい。マスクのない人は、奥へいってください」

あっちでもこっちでも、お祈りの声だ。

「今度は、あぶない」

「おい、もっと奥へいこう」

揉みあっている一団があった。

「騒いじゃ、駄目だ、敵機の音が聞えやしない」