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えいほんどじょうりくせんのぜんや

英本土上陸戦の前夜

海野 十三

「新青年」1941(昭和16)年 2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,727 字 · 72 页

青空文庫

4

彼は、女の背に、手をまわした。

「おう、可愛い私の……」

彼は、その先の言葉につまった。

「私のアン……」

女が、そういった。

「そうだ。可愛い可愛い私のアン。私はもう、どこへもいきはしないよ」

彼は、そういうと、唇をかんだ。頬を、止め度もなく、熱い涙がほろほろと、滾れ落ちた。

4

仏天青は、アンと抱きあっていた。

それから暫くして、彼は、アンの腰のあたりに、変に硬いものが当るので、ふしぎに思って、そこを見た。

「おや、アン。これはどうしたのかね」

彼は、アンの腰に、丈夫な綱がふた巻もしてあるのを発見した。しかもその綱の先は、防空壕の肋材の一本に、堅く結んであった。まるで囚人をつないであるような有様であった。

「いいのよ、あなた」

「よかないよ。説明をおし。これじゃ、まるで……おや、手も、そうじゃないか」

アンの手首は、いつの間にか綱でしばられていた。

「大丈夫。手首はぬけるのよ」

といって、アンは、綱のくくり目から、手首をぬいてみせた。しかし腰の紐までは、ぬいてみせなかった。もちろん、それは抜けないように二重に縛ってあった。

「アン。なにもかもお話し。一体……」