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えいほんどじょうりくせんのぜんや

英本土上陸戦の前夜

海野 十三

「新青年」1941(昭和16)年 2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,727 字 · 72 页

青空文庫

爆弾は、ひっきりなしに落ちて、黒い煙の柱をたてた。大地は、しきりに震う。

「おーい、アン」

仏は、精一杯の声をあげて、アンを呼んだ。

「あたし、ここよ」

うしろで声がした。見ると、アンは、そこに跼んで、腰の周りについていた綱を、解いているところだった。

「呑気だね、今、そんなことをして……」

「もう解けたの。大丈夫ですわ。さあ、あなた、この車にしましょう」

「えっ」

アンは、防空壕の入口に乗り捨てられてあった自動車の一台に駆けよると、運転台の扉をあけて、とびこんだ。

「早く、さあ、あなた」

仏は、アンの心を解しかねたが、ぐずぐずしているわけにもいかず、つづいて、運転台にとびのった。

「あら、あなたと反対だったわね」

アンは、ハンドルのことをいっているらしかった。

「よし、こっちへ替れ。おれが、運転する」

「そんな暇はないわ。あたしが動かします」

そういうと、アンは、ためらうことなく、エンジンを掛けた。そしてアクセルを踏んで、車を出した。

それからのちの、アンの働きぶりは、驚嘆に値するものがあった。

彼女は、その子供らしい顔に似合わず、非常に巧みに操縦をした。そして爆撃に震う舗道のうえを全速力でもって、リバプールの町の方へ飛ばしていった。