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ちゃがゆのき

茶粥の記

矢田 津世子

「改造」1941(昭和16)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页

青空文庫

裏の竹藪のあたりで鋭い小鳥の声がしていた。居ながらに山の望める静かな部屋だった。山は薄闇の裾をひいて仄明るい頂きに纔か雪のかつぎをつけていた。子供を呼ぶ母親の声が遠くのほうから聞えてきた。澄んだ空気の中にその声はこだまして長く尾を曳き、いつまでも空に漂うているようだった。

部屋の横手は一段下って湯殿へ通じる渡り廊下になっていた。それだけ低い屋根をかぶっているので、炬燵のところからは時たまそこを通る人の足許が眺められるだけだった。姑が湯へ行っている間、清子はなすこともなく呆やりと、そこへ眼を遣っていた。しぜん、そこへだけ眼がいくのは、何か気羞かしかった。思いがけなく小諸の駅で見た鳩が思い出された。二羽連れ立っていた睦まじさが眼に沁みていた。口笛と一緒に元気な足音がして、下の廊下を茶縞丹前の人が通りすぎた。丹前が短かいのか、着方がぞんざいなのか、湯あがりの真っ赤な毛脛をむき出しに、スリッパからはみ出た足も静脈を浮きたたせて如何にも健康そうだ。清子は火照った気持で聞くともなしに足音を聞いていたが、ふいに叩かれたようにまごついて、姑を迎えに湯殿のほうへ降りて行った。