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ちゃがゆのき

茶粥の記

矢田 津世子

「改造」1941(昭和16)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页

青空文庫

と言ってからかったものだった。手入らずのお金かからずだとて、客をもてなすにも清子のお粥である。良人はよくこう冷やかした。

「役所が馘になったらお前さんにお粥屋をはじめてもらうよ。粥清とでも看板をあげるか。いかに何んでも粥ばばではね、色気がなさすぎる」

自分の思いつきに独りでクスクス笑うのだった。こんなことも附けたした。「そしたら憚りながら俺は手ぶらで食わせてもらうよ」

清子も負けてはいなかった。

「どういたしまして。そうなったら旦那さまには前掛けをさせてお米とぎから火おこし、それから出前持ちをして頂きますわ」

「おやおや、女房の煙管で亭王こき使われかい」

「煙管どころか、わたし算盤で大忙しよ」

思えばこうした楽しいやりとりも今となっては詮ない繰り言になってしまった。

この頃になって清子はやっと正気づいたような気持で亡夫のことをあれこれと思い出すのだけれど、眼にまつわるのはその面立ちよりも不思議にいかつい肩のあたりや墨汁臭い指だった。この思いがけなさに清子はまごついた。良人はいくらか猫背の右肩だけが怒ったようになっていて、そのため後ろ姿が癇の強い年寄りじみて見えた。