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ちゃがゆのき

茶粥の記

矢田 津世子

「改造」1941(昭和16)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页

青空文庫

役所の建物は古く薄暗くて、各係りの机の上低く朝から電燈がつけっぱなしになっていた。良人の係りでは謄本や抄本が日に何十通となく出た。この頃は中商工業者の転業失業のためにも謄本がよけい出るようになった。居残りが続いた。家に戻って晩い食卓につきながら箸がうまく動かせないで、良人はしきりと指を揉んでいることがあった。

「手が馬鹿になった」

不審がる清子へ良人は笑いながらこう言って、右の手くびをカクンカクン振ってみせたりした。

墨汁で顔まで汚したり、袖カバーをはめたまま戻ってきたりすることがよくあった。このカバーは清子のお手製だった。買ったものは品が弱く、すぐ破いてくるので、清子は姑の不用になった毛繻子の帯をもらって、二つも三つも丈夫な袖カバーをつくっておいたのだった。

「今日はね、おかしな結婚届があったよ。嫁さんも婿さんも操っていうんだがね」

役所の中のことはあまり口にしないほうだったが、それでも時たま思い出し笑いをしながら姑や清子を相手に話した。

「尤も、操だからいいようなものの、これが有馬省君とせんさんじゃあ、夫婦喧嘩が絶えやしない。ありましょう、ありませんで始終角突き合いだ」