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きのこがり
茸狩り
和辻 哲郎
「思想」1936(昭和11)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,663 字 · 6 页
彼はもはや漫然と松林の中に茸を探すのではなく、松林の中のここかしこに散在する茸の国を訪ねて歩くのである。その茸の国で知人に逢う喜びに胸をときめかせつつ、彼は次から次へと急いで行く。ある国では寂として人影がない。他の国ではにぎやかに落ち葉の陰からほほえみ掛ける者がある。そのたびごとに子供は強い寂しさや喜びを感じつつ、松林の外の世界を全然忘れている。そういう境地においては実際に初茸は愛らしく、黄茸は品位があり、白茸は豊かであり、しめじは貴い。こういう価値の感じは仲間に教え込まれたのではなくして彼自身が体験したのである。彼は自らこの探求に没入することによって、教えられた価値を彼自身のなかから彼自身のものとして体験した。そうしてこの体験は彼の生涯を通じて消え失せることがない。
そこで振り返って見ると、茸の価値をこの子供に教えた年長の仲間たちも、同じようにそれぞれの仕方においてこの価値を体験していたのであった。そうしてその体験の表現が、たとえば茸狩りにおける熱中や喜びの表情が、彼に茸の価値を教えたのである。だからここに茸の価値と言われるものは、この自己没入的な探求の体験の相続と繰り返しにほかならぬのであって、価値感という作用に対応する本質というごときものではない。