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そうし

荘子

岡本 かの子

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页

青空文庫

荘子はこんな事をうつらうつら考え乍ら小さい燭の下で妻の田氏と沈黙勝ちな夜食を喰べて居た。考えれば考える程不思議な麗姫の存在だった。彼女は彼女が我儘をすればする程彼女の美しさを発揮するのだ………道は道なき処に却って有るのではないか、彼女の如く拘束なき処に真の生命の恍惚感が有るのではなかろうか……。

「あなた、遜さんが何かまた麗姫の珍らしい話でもして参りましたか」

妻の言葉に荘子ははっとしたが、まさか一婦人の存在を自分の「道」に係わる迄考慮して居たとも云い度くなかった。

「別に珍らしい話というでもないが相変らずやんちゃで美しいと云ってた」

と答え、それに申わけばかり云い足して、麗姫が池の魚の逃げたのを恨んだ話をつけ加えて何気ない様子で軽く笑ったが悧巧な田氏は大方夫の胸中は察して居た、しかも、何事も夫の気持ちのリズムに合わせようとして矢張り夫と同じその話を軽い笑いで受けた。

「ほ、ほ、ほ、相変らず可愛ゆい娘でございますね」

だが荘子はまたそれに重ねて笑う気持にもなれず、相変らず不味そうにもそりもそり夜食の箸を動かして居る。

妻の田氏は魏の豪族田氏の一族中から荘子の新進学徒時代にその才気煥発なところに打ち込んで嫁入って来たものであった。